疾走する騎馬隊
南北朝という日本史上最も矛盾に満ちた混沌の中で、ただひたすらに純粋に熱く生きた北畠顕家の短くも激しい青春の物語。いかに美しく死んだかを男の価値観とする北方謙三により躍動感満点の主人公に描かれています。北方歴史モノは主人公の選び方が良い意味で趣味に偏っていて、ニンマリさせられますね。北畠顕家もかつて大河ドラマ「太平記」でゴクミ(!)が演じていて、妙に心に残る人物でした。本当にこの若さでこれくらいの武将としての成熟度があったのかどうか。もっと若さゆえの脆さがあった方が(史実はともかくも)共感できたような気もします。それをおいても相変わらず素晴らしいのは北方先生の合戦の描写。特に騎馬隊の疾走感は砂埃の息苦しさや、頬を伝う血の混じった汗の匂いすら感じさせます。
国のあり方を模索した漢たちの生き様
北条を中心とした武家社会が一旦崩壊した後、再び武家による統治か、はたまた
後醍醐帝中心の親政を護るか、国のあり方を問われた南北朝という時代、
彗星の如く現れ、散っていった麒麟児:北畠顕家の生涯を颯爽と綴った物語。
武家の棟梁として再度武家中心の国を作るために心血を注ぐ尊氏と
それを支える直義、重臣の斯波家長・・・。
対して、後醍醐帝の親政を護らんとする北畠顕家、親房、大塔宮、新田義重、
楠木正成・・・。
そして双方の間で揺れる伊賀盛光。
密かなる夢を抱きつつ、やがてその夢を顕家にかける安家利通。
主人公の顕家のみならず、他の登場人物にもそれぞれに抱く夢や正義があり、
ぶつかり合う様が大変魅力的です。
個人的には顕家と配下の忍:如月の関係が徐々に密になっていく様子に魅かれました。
北方歴史物の初期作品という意味でも、注目です。
滅びの美学
日本という国が混沌としていた時代、己の信じる道に一点の曇りもない目と心で、突き進んだ若き北畠顕家の青春の全てがここに。 武士ではないというだけで軍勢を集めるのにも苦労し、若いというだけで様々な勢力から侮られ、陸奥守赴任直後は引き連れてきた郎党の維持にも苦労する。 そんな状態でも諦めることなく自分の持てる知力、胆力、そして新しい国家作りへの夢で、誰もが驚く作戦を遂行してみせる稀代の麒麟児が活躍する時代小説。
滅びゆく破軍の星の最後に真の勇者のきらめきを見た
時代は南北朝動乱の世、北畠顕家の純粋で誠のもののふという武士の姿を見た、動乱の世に北畠顕家という苛烈も熱い熱風が吹き荒れる
ひとつの時代に生ききること
主人公の若き公家侍、北畠顕家が年のわりに落ち着き過ぎている点は、ミーハーなファンにとってやや玉にキズですが、公家が戦わなくなって久しい世の中で敢えて戦乱のさなかに身を投じ、公家という立場に悩みながらも己の数奇な運命を受け入れるその姿は、眩しいくらい素敵でした。顕家が活躍したのは南朝(宮方)と足利氏(武家方)の激戦時。南北朝という昏迷の時代がいっそう混戦状態になる時期で、少し南北朝時代をかじっていないと展開を理解するのが難しいかと思いきや、ここに絡んでくる公家でも武家でもない山の民・安家一族や忍び者・如月の存在が、複雑な時代背景を余計複雑にするのでなく、様々な立場に生きる者たちを繋げ、ひとつの時代に生きる者としてうまくまとめてくれています。 公家と武家の戦と平穏、その狭間で揺れ動く顕家の心情も細やかに描かれていき、読み手の心にびんびん響く力強い言葉のひとつひとつが秀逸。 淡いロマンスもあるのですが、甘すぎないところがまたいいのです。 そうした主人公の魅力もさることながら、その他大勢、カッコいい男たちの匂いが作品全体にぷんぷんしていて、酔えます(笑) 主役の顕家からは敵方にあたる武家方のお歴々、足利尊氏や足利直義、麾下の斯波家長や上杉憲顕らも勿論魅力的で、かつ彼らの心境心裡に深く切り込んで描写された時代観は、個人の魅力以上にこの時代の面白さを物語ってくれます。 史実では非業の死を遂げた顕家ですが、ラストを悲劇で終わらせないところがまた憎い演出です。
集英社
武王の門〈下〉 (新潮文庫) 武王の門〈上〉 (新潮文庫) 波王の秋(とき) (集英社文庫) 道誉なり〈下〉 (中公文庫) 道誉なり〈上〉 (中公文庫)
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